【03】 成年後見制度

3-1 成年後見制度の概要

成年後見制度は、①後見(7条~)、②保佐(11条~)、③補助(15条~)、の3類型による制度となっている。

後見開始・保佐開始・補助開始の審判は、本人、配偶者、4親等内の親族等のみならず、公益の代表者たる検察官も請求できる。

1 後見の対象となるのは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者である(7条)。
後見開始の審判は、未成年後見人や未成年後見監督人も請求することができると規定されており、未成年者に対して成年後見開始の審判がなされることもありうる。

2 保佐の対象となるのは、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者である(11条)。

3 補助の対象となるのは、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者である(15条1項)。
補助開始の審判をなすには、本人の同意がなければならない(同条2項)。
補助は、事理弁識能力が単に不十分である者の場合に利用される法定後見類型であり、これを利用するかどうかに関する本人の意思を尊重する趣旨である。

3-2 後見

後見の対象となるのは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者である(7条)。

成年被後見人の行為は、後見人の同意を得てしたものであっても、つねに取り消すことができる(9条本文)。

ただし、成年被後見人のなした日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消すことができない(同条ただし書)。これは、改正法の理念である「自己決定の尊重」の現われである。

3-3 保佐

保佐の対象となるのは、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者である(11条)。

被保佐人は、重要な財産上の行為を単独ですることができず、保佐人の同意を要することとなる(13条1項)。

被保佐人は、日常生活に関する行為を単独でなしうる(13条1項ただし書)ほか、重要な財産上の行為でも、保佐人の同意さえあれば、みずから有効な意思表示をなしうる。

保佐人の同意を要する行為は、家庭裁判所において、追加することができる(13条2項)。

同意を要する行為につき、被保佐人が同意を得ないでなした場合、取り消しうることとなる(13条4項)。

保佐人も、取消権者となる(120条1項)。

保佐人は、取消権を有するので、被保佐人の取り消しうる行為について追認することもできる(20条4項、122条*)。

また、家庭裁判所は、被保佐人のために、特定の法律行為について保佐人に代理権を付与することができる(876条の4第1項)。
本人以外の者の請求によって代理権を与える旨の審判をするには、本人の同意を要する(同条2項)。

* 120条1項の取消権者として「同意をすることができる者」が規定されたので、同条を引用する122条により、保佐人の追認権が明示されたこととなる。

3-4 補助

補助の対象となるのは、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者である(15条1項)。

補助開始の審判をするには、本人の同意を要する(同条2項)。

補助開始の審判がなされると、補助人が家庭裁判所によって職権で選任される(16条・876条の7第1項)。

補助人の権能については、次のように定められている。

① 家庭裁判所は、特定の法律行為をするには補助人の同意を得ることを要する旨の審判をすることができる(17条1項本文)。

② 家庭裁判所は、特定の法律行為について補助人に代理権を付与する審判をすることができる(876条の9第1項)。

③ 補助人に同意権(①)と代理権(②)の双方を付与することもできる。

いずれの場合にも、本人の同意が必要である(17条2項・876条の9第2項)。
いずれの場合にも、「特定の法律行為」を対象とするのは、被補助人が単独でなしうる行為の範囲を被保佐人よりも広くする趣旨である。

3-5 意思能力の欠如

意思能力とは、自己の行為の結果を判断することのできる精神能力をいう。
意思能力なき者のなした意思表示は無効である(大判明治38・5・11)。


家庭裁判所の審判により成年被後見人とされていない者が、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」ときは、意思能力に欠けると解される。
このような者は、制限行為能力者として意思表示の取消しをすることはできないが、意思表示の無効を主張することができることとなる。

3-6 制限行為能力者の詐術

制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない(21条)。

制限行為能力者であることの黙秘が「詐術」にあたるか、という問題がある。
判例の見解は、次のとおりである(最判昭和44・2・13)。

1 制限行為能力者であることを黙秘していただけでは詐術があったとはいえない。

2 ただし、制限行為能力者であることを黙秘していた場合に、それが制限行為能力者の他の言動などとあいまって相手方を誤信させ、または誤信を強めたと認められるときは、詐術にあたる。