【06】 失踪宣告

6-1 失踪宣告の意義

失踪宣告とは、生死不明が一定期間続いたときに、一定の条件の下でその不在者を死亡したものとみなし、その者をめぐる法律関係を処理しようとする制度である。

失踪には、普通失踪と特別失踪とがある。

1 普通失踪

不在者が、7年間、生死不明であるときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる(30条1項)。
これを普通失踪という。
普通失踪の場合、生死不明となってから7年間が経過した時に、死亡したものとみなされる(31条)。

2 特別失踪

戦争や船舶・航空機事故等の「死亡の原因となるべき危難」に遭遇し、危難の去ったのち1年間、生死が不明であるときも、同様に失踪宣告をすることができる(30条2項)。
これを特別失踪という。
特別失踪は、危難の去った時に死亡したものとみなされる(31条)。

6-2 失踪宣告の効果とその取消し

失踪宣告を受けた者は、死亡したものとみなされる(31条)。
死亡とみなされることの効果は、最後の居住地における財産・身分関係にケリをつけて、相続を開始させ、婚姻を解消させることである。
したがって、失踪宣告を受けた者の権利能力を奪うものではなく、他所で身分・財産関係を形成することは可能である。

失踪宣告によって死亡したとみなされるのであり、これは、死亡の推定ではない。
失踪宣告後、本人が生きて帰ってきても、宣告が当然に効力を失うわけではなく、宣告の取消しによって、はじめて効力が失われる。

失踪宣告がなされたが、生きて帰ってきたという場合、本人または利害関係人は、家庭裁判所に失踪宣告の取消しを請求することができる(32条1項本文)。

6-3 失踪宣告取消しの効果-遡及効

失踪宣告が取り消されると、失踪宣告は、はじめに遡ってなかったものとして扱われる。
すなわち、失踪宣告の取消しには遡及効がある。

ところで、失踪宣告により、死亡したとみなされたのであるから、相続が開始していたり、配偶者が再婚していたり、さまざまな法律関係の変化が生じている場合がある。
それをすべて失踪宣告の取消しによって覆すとなると、現状の生活を著しく損なう可能性がある。
そこで、32条は、失踪宣告取消しの効果を制限した。

6-4 失踪宣告取消しによる遡及効の制限

失踪宣告が取り消されても、失踪宣告によって生じた法律関係をすべて覆すことは、好ましくない場合がある。
そこで、次のように遡及効が制限される。
遡及効の制限は、すべて、関係者が「善意」であったことを前提とする*。

第1に、失踪宣告後、その取消し前に善意でした行為は、その効力を変じない(32条1項後段)。

たとえば、夫の失踪宣告がされ、死亡したと信じた妻が、相続した夫の不動産を第三者に売却したような場合、その売買は、関係者双方が善意であれば覆らず、効力を維持する。
また、身分上の法律関係も、善意であれば覆らない。
夫が死亡したと考えた妻が再婚した場合、再婚は無効とはならない。

第2に、失踪宣告によって財産を得た者は、失踪宣告の取消しによって権利を失うが、「現に利益を受けている限度」において返還すればよい(32条2項)。

「現に利益を受けている限度」とは、費消や毀損した分は返還しなくてよいという意味である。
相続が発生し現金を得た場合、費消した残額を返還すればよい**。

 * 「善意」とは、生きていることについて善意、つまり生きているとは知らなかった、という意味になる。どこまでの関係者に「善意」を要求するかについては、学説の争いがある。
** 悪意(生きていることを知っていた)であれば、全額の返還義務がある。